私小説 ひきこもり中学生、近所のJKをナンパ

ひきこもりの1日は永遠よりも長い。

ぼくはこの日をずっと待っていた。

 

月曜日 15:30  終業のチャイムが聞こえる。

ぼくはベッドから起きて鏡の前でブレザーに袖を通す。

「サイズ全然合ってねぇな…」

再従兄弟の家から勝手に持ち出した制服はぼくが着ると完全に萌え袖だ。

髪をとかしながら双眼鏡で外を見る。

 

あの子がきた!

 

階段を猛ダッシュで降りて外に出る。

家の玄関から高校の校門までは50メートルもない。

しかし、人生で1番大切なことはタイミングなのだ。

どっかの海外ドラマで聞いたセリフを思い出しながら、ぼくは家を出て校門前で彼女をまちぶせる。

 

 

喧嘩に巻き込まれて私立中学校を退学になるなんて本当にバカだ。

中学校を3年生の秋に退学になったぼくは、別の私立中学に転校しつつ、新しい学校のクラスメイトたちの仲に水を差さないように優雅なひきこもり生活を営んでいた。

 

学校を辞めたものの前の中学の友達から一切の連絡はない。

それもそうだ。

ぼくが退学になったタイミングで親友の竜司も一緒に退学になっていた。

竜司の退学は、ぼくとは全く別件で

ぼくの当時のバンドメンバーにして唯一のミッシェル好きの友達である安田を妊娠させたせいだった。

 

ぼくとあいつが学校に来なくなってから、当時のクラスメイトたちの間では、ぼくらが安田をマワして妊娠させたことになっているらしい。

ぼくが安田のことを好きだっただけに、ぼくは竜司を許せずに全ての友人を失った。

 

そして、いかんせん。

今、ぼくは高校生の制服を着て家の目の前の高校の校門でJKを待ち伏せしているのであった。

 

                                                                        つづく

 

新宿渋谷間少女蹂躙ローカル線の旅

大学ノートの端に「死ね」って書いて千切ってポケットにしまう。

きみの机にぼくときみ以外のクラスメイトの数だけ「死ね」を置いていく。

 

毒というよりはドクターペッパーみたいな嗜好品。

 

きみの日直の名前の横の文字を消して、

ぼくの名前を書き込んでついでに相合傘

 

新宿渋谷間ローカル線の旅

真っ赤な手首が浴槽からぶらり途中下車

 

新宿ぶらぶらギャル一回死んで寝て起きたら朝焼けの赤富士

 

エヴァンゲリヲンのラストシーンみたいな大団円の学級崩壊

 

「死ね」って書いた切れ端を丁寧に数えてみたら、ぼく以外のクラスメイトの数ピッタリ一致

 

ぼくがきみに「生きて」というチャンスは結局なかったね。というオチ。

 

 

 

 

 

 

GW明け 朝

死体を探して線路を歩いてきたものの結局見つけたものは自分の死体でした。ってオチのシックスセンスみたいなスタンドバイミー。

 

病院通いの夢から覚めた。

さっきまで片足を引きずっていたぼくは、倦怠感を引きずって会社に行く。

 

子供を後ろに乗せて自転車を漕ぐサラリーマンを横目に、タバコを咥えて憂いを吐く。

 

駅のホームは人で溢れかえっていて、蛇の交尾のように複雑な列をなしている。

 

高円寺を過ぎて、中野も過ぎた。

もうなん時も過ぎて、幾度も過ぎる。

 

思いがけないことも、思い描けないことも、全てを黄色い線の中に置き去りにして満員の電車に無理やり乗り込む。

 

線路に降りたら危険だって知ってる、選択肢を棄権して俯く人のスマートフォンにポルノを流したい。

 

過ぎ去った全部をボストンバッグに詰めて線路を歩いている人が電車に轢かれそうになっても「あぶない!」なんて絶対に言えない。

 

言えるわけない。

たぶんきみも。

 

 

 

 

 

令和

シーシャを吸いながら曲を作ろうとPCを持って店に来たけど、イヤホンが壊れていたので仕方なく文章を書く。

 

今日、令和元年5月1日、昨晩から今日の昼まで遊び歩いていたので正午に就寝して目覚めたら21時。

大学生の頃と違い一日中呑み過ごしても二日酔いになることはなくなった。

 

街へ出ると道行く人はみんなイヤホンをして歩いている。

小学生の頃の教科書に載っていた「ユビキタスコンピューティング」という言葉も、「ウェアラブルコンピュータ」という言葉もすっかり聞かなくなったほど当たり前になった時代。

自分の言葉は心の奥にしまって、誰かの言葉でiPhoneが振動するのを外腿で感じる。

 

政治家のポスターには一様に「実行力」の文字。

実行することが考えることよりも難しい。

足踏みするほうが前に進むより簡単だ。

 

名前は思い出せないけれど見覚えのある顔を吉祥寺の商店街で見かけた。

知り合いだったかもしれないけど、知り得ない時間が山程あって、ぼくらは声を掛けずにすれ違う。

 

小学生4年生。好きな子が名古屋に引っ越した。

毎月手紙を送ってほしいと言われたけれど、ぼくは携帯のメールアドレスと電話番号を教えて一度も手紙を送らなかった。

彼女から電話がきたことはない。メールもない。

手紙だけが毎月かかさずに送られてきた。

ぼくが薄情であったようにも思うし、時代が薄情であったようにも思う。

 

タバコの煙が住宅街の明かりに紛れて消える。

何もかもが早すぎた。平成。